1つの建物から描き始めるストリートスケッチの描き方
窓、看板、行き交う人々の描写に圧倒されずに通りの風景をスケッチするには、基準となる建物を1つ選ぶのがコツです。その建物を中心に小さな構図を決め、まずは一番大きな形状を描き、それをもとに通りや周囲のディテールを描き加えていきます。このアプローチをとれば、明確な焦点(フォーカルポイント)が定まり、それ以外の風景をシンプルにまとめる余裕が生まれます。
1. 基準となる建物と構図を決める
遠くから見ても特徴が分かる形の建物を1つ選びましょう。例えば、間口の狭い店舗、角地のファサード、特徴的な屋根のラインを持つ区画などが適しています。通りの中で一番立派な建物を選ぶ必要はありません。印象的な出入口、幅の広い日よけ(オーニング)、個性的な上層階、あるいは明快な光と影のパターンがあれば、それだけで絵全体を引き締めるのに十分です。
建物の正面と、周囲の通りを感じさせる要素(歩道の一部、隣の壁、街路樹、道路の端など)が少なくとも1つ見える場所に立ったり座ったりします。ファサードをほぼ正面から捉えるか、側面が奥へ遠ざかる角度で捉えるかを決めましょう。この選択によって、遠近法の設定や、画面に入る通りの範囲が変わってきます。
指で枠を作ったり、紙のシンプルなフレームを使ったりして、構図を切り取ってみましょう。屋根の上や建物の横に十分な余白を残し、ページの端に窮屈に押し込められないようにします。景色を形作るいくつかの主要な線を見つけましょう。建物の垂直な輪郭線、屋根やコーニス(軒蛇腹)、歩道の端、そして隣接する壁が奥へ向かう方向などです。アーバン・スケッチャーズ(Urban Sketchers)の観察ガイダンスでも、主要な線、形状、角度を選び出し、焦点を絞った絵にするために何を省略できるかを判断することの重要性が強調されています(Urban Sketchers「What to Leave Out, What to Leave In」)。
2. 本番の前にサムネイル(小さな下描き)を描く
用紙の余白や小さなノートに、切手ほどの大きさのサムネイルを描いてみましょう。ページの枠、大きな塊としての基準の建物、地面の線、そして1〜2個の周囲の形状といった、ごくわずかな線だけで描きます。建物が左、右、中央寄りのどこにあると収まりが良いか、建物の前の通りにもっとスペースが必要かどうかを試してみます。
この小さな試し描きは、細部を描き込む前に構図を確定させるための実用的な方法です。サー・ジョン・ソーンズ美術館の解説によると、建築スケッチとは基本的な形態やプロポーションを示す素早くシンプルな描画であり、この優先順位はコンパクトなストリートスケッチを計画する際にも役立ちます(Sir John Soane’s Museum「Understanding Architectural Drawings」)。サムネイルを見て、その場所にある建物だと認識できれば、窓が一つも描かれていなくてもその役割を果たしています。
3. 地平線(アイレベル)と建物の大きな形状を決める
本番の用紙に、地平線(視線の高さ)のおおよその位置を薄く印をつけます。空や前景をどれくらい入れたいかによって、紙の中央より上にも下にもなり得ます。通りが遠くの1点に向かって目に見えて狭くなっている場合は、その高さの線上に消失点をマークします。一点透視図法では、風景の中で平行な遠ざかる線はその点に向かうように見えます。地平線と消失点は便利なガイドラインであり、すべての建物を無理に同じ配置に押し込めるためのものではありません(クリーブランド美術館「Perspective」)。
細部を描く前に、基準となる建物を大まかなシンプルな形で捉えます。幅と高さの比率を確認しましょう。縦長で狭い店舗なのか、幅広で低いファサードなのか。屋根のライン、外側の2本の縦線、そして建物が歩道と接する下端に印をつけます。見上げたり見下ろしたりする強い傾きがない場合は、垂直の線はまっすぐ立てておきます。側面の壁が見えている場合は、視点に合わせた方向へその上端と下端を後退させます。
この段階では、軽やかで大まかなストロークを使います。少し離れて見るか、一度視線を外してから、建物が意図した通りの位置に収まっているか確認してください。幅が広くなりすぎたり、余白にはみ出したりしている場合は、今のうちに大きな輪郭を修正しましょう。全体の配置が崩れていては、いくら細かいディテールを描き込んでも修正できません。
4. 基準の建物から外側へ通りの遠近感を描き加える
建物の輪郭が決まったら、それを基準にして歩道と通りを描き加えます。縁石、敷石の継ぎ目、建物の基礎などに着目しましょう。どの線が手前から奥へ遠ざかっているように見え、どこへ向かっているでしょうか。素直な一点透視の通りの風景では、奥へと続く道路の端線は同じ消失点へと収束していきます。クリーブランド美術館のストリート演習では、消失点へと伸びる2本の線から道路を作り、その周囲に建物や樹木を配置していく方法が紹介されています(Cleveland Museum of Art「Perspective」)。
建物の角が主役となる構図の場合は異なります。箱状の構造物の2面が見えている場合、それぞれの面の水平な線は異なる方向へと遠ざかります。道路の奥に中心があるように見えるからといって、両方の線を無理に1点に収束させようとしないでください。建物自体に見えている角度に従い、通りも構図の中の1つの形状として捉えましょう。アーバン・スケッチの遠近法ガイドによると、現場でのスケッチでは、視野の角度に応じて一点透視、二点透視、あるいは複数の消失点を用いることができるとされています(Urban Sketchers Seattle「Stephanie Bower’s Understanding Perspective」)。
次に、隣接する建物を2つ目のブロックとして描き加えます。その上端と下端を基準の建物と比較し、実際の風景で見えている通りに、小さくしたり一部を隠したりします。空や遠くの通りがまだ見える隙間は残しておきましょう。その隙間があることで建物同士が区別され、絵が単なる長方形の連続になってしまうのを防ぐことができます。
5. 窓、扉、通りのディテールを選択して配置する
個々の開口部を描く前に、基準となる建物のファサードをいくつかの大きなゾーンに分割します。メインの出入口の位置を決め、その高さと幅を建物全体と比較します。次に、最も大きな窓を描き加えます。開口部同士の間隔や、各階ごとの並びを確認しましょう。薄いガイド線を引いておくと、列が予期せず上下にずれてしまうのを防げます。
正面を向いている面の窓は、ほぼ長方形に見えるでしょう。側面の壁にある開口部は、その壁が奥へ向かう傾きに従います。看板、日よけ、レンガの目地、バルコニーの手すり、屋根のディテールについても同様の観察を繰り返します。それらが位置する面のパースに合わせて配置してください。グリネル大学美術館のステップ別遠近法アクティビティでは、敷石やレンガの列など後退する表面のディテールが風景の遠近法に従う一方で、正面を向いた中央の建物は比較的平面的に保たれる様子が示されています(Grinnell College Museum of Art「One-Point Perspective: Giovanni Battista Piranesi」)。
その場所らしさを表すディテールや、通りがどのように使われているかが伝わる要素をいくつか選びましょう。店の看板、ファサードに重なる街路樹、自転車、駐車中の車両などは、レンガを1つずつ描くよりもずっと効果的に風景を伝えてくれます。はっきりと観察できたものや、明確に思い出せるものだけを描き加えます。通行人や車両が動いている場合は、シンプルなシルエットや部分的な形状を描くだけで、周囲の風景をすべて描き直すことなく動きや活気を表現できます。
6. 明暗(バリュー)と色を使って基準の建物を際立たせる
色を塗る前に、大まかな明暗のグループを見極めましょう。建物の片側は影になっていますか? 出入口は壁よりも暗いですか? 通りは建物の足元よりも明るいですか? 限られた色数であっても、こうした大きな明暗の形を描いておくことで、基準となる建物を周囲の形状から際立たせることができます。
色選びは目に見えるものに合わせましょう。日差しを受けた温かみのある壁、冷たい影、落ち着いたトーンの道路などです。紙の白を残すことで明るい面を表現し、最も濃い色は出入口、窓の窪み、強い落ち影など、効果的なアクセントとして使うためにとっておきます。インクと水彩ウォッシュで描く場合は、色が建物の面を覆い隠してしまうのではなく構造を引き立てるよう、下絵の線画がしっかり定着してから大まかなウォッシュを重ねましょう。
7. 完成とする前に全体をチェックする
短いチェックリストを使って、描いた絵と実際の景色を見比べてみましょう。第1に、基準の建物はページ上での全体の幅と高さのバランスが合っていますか? 第2に、屋根のライン、地面の線、通りの端線から見て、建物の位置関係に矛盾はありませんか? 第3に、窓や扉はファサードの上に浮いてしまわず、しっかりと壁面に収まっていますか? 最後に、選び取ったいくつかの周囲の要素から、通りの雰囲気が伝わってきますか?
どこか違和感がある場合は、線をさらに描き足す前に一番大きなズレを見つけ出します。看板の描き忘れなどよりも、屋根の傾きの向きが違っていたり、ファサードの幅が広すぎたり、通りのラインが不自然だったりすることの方が通常は重大です。大きな形状を軽く修正し、基準の建物と競合してしまうようなディテールは簡略化するか省略します。遠近法による描画は、奥へ向かう線や見かけの大きさの変化によって奥行きを表現するのに役立ちますが、現場でのスケッチにおいて最も重要なのは、視点を定め、どの観察結果を描くべきかを選択することです(Sir John Soane’s Museum「Understanding Architectural Drawings」; Urban Sketchers「What to Leave Out, What to Leave In」)。
建物、建物と通りとの関係性、そして1〜2個の特徴的なディテールが明確になったら完成です。1つの建物から描き始める目的は、意識を向ける確かな基準を作ることです。その形から外側へと風景を広げ、描き足すごとに実際の景色と照らし合わせ、通りの残りの部分は主役を引き立てる程度にシンプルにまとめておきましょう。
