スローペースなゲームデザインは「歩く速度を落とす」だけではない
より落ち着いたテンポのゲームプレイを作るには、キャラクターが空間を移動する速度だけでなく、プレイヤーが意思決定やアクションにどう向き合うかを変える必要があります。任意のインタラクションをいつ開始するかをプレイヤーの判断に委ね、次に取るべきアクションを分かりやすくし、適切な場所で一時停止を許可し、プレッシャーを与えることなく注意を引くような細やかな選択肢を用意しましょう。そうすれば、キビキビとした移動を維持したままでも、プレイヤーが気づき、行動を起こすリズムそのものから心地よいペースを生み出すことができます。
まずはゲームプレイにおいて「スロー」が何を意味するのかを定義する
「スロー」という言葉は曖昧すぎて、それ単体ではデザインの目標になり得ません。行動を起こす前に周囲をじっくり観察できること、会話を次に進めるタイミングを自分で選べること、あるいは部屋の模様替えに時間をかけられることなど、様々な意味を持ち得ます。これらはすべて異なる体験であり、必要なメカニクスも異なります。まずは想定するプレイヤーの行動を明確にしましょう。例えば、「細部に気づき、それに関与するかどうかを決める」といったことです。
次に、プレイヤーが何を見て、何を理解し、何を行うことができ、その後に何が起こるかという短いシークエンスを整理します。その中で、現在ゲーム側が焦りを強いてしまっている箇所を洗い出しましょう。カウントダウン、時間制限付きの選択、近づいた瞬間に発生するインタラクション、すぐに消えてしまう入力プロンプトなどは、たとえキャラクターの歩く速度が遅くても、その瞬間を慌ただしく感じさせる要因になります。これはデザイン上の現状分析であり、すべてのタイマーが悪だと言っているわけではありません。時間制限のあるチャレンジこそが核となるゲームも存在します。
GDCのレベルデザインに関する議論では、直前の展開も含め、ゲーム体験全体の文脈の中でステージのペーシングを考慮することの重要性が強調されています。高難度・高強度のレベルの後に静かなセクションを設けることは、意図的な緩急の変化として機能します。しかし、そこで何ができるのかを明確にしないまま移動速度だけを遅くしてしまうと、意図した効果は得られないかもしれません。GDC 2017 Level Design Workshop
任意のタイミングに意味を持たせる
特定の瞬間に実行しなければならないアクションと、後回しにできるアクションを切り分けましょう。手紙を読むこと、オブジェクトを調べること、会話の返答を選ぶこと自体が試練(チャレンジ)でないのなら、プレイヤーが自分のタイミングで開始し、準備が整ったときに先へ進められるようにすることを検討してください。MicrosoftのXbox Accessibility Guideline 116では、プレイヤーがゲームの核ではないUIの時間制限を管理できるようにし、制限時間を調整したり入力によってテキストを進めたりできるようにすることを推奨しています。このガイドラインでは、そうしたUI操作と、レースタイマーのようなゲーム性の核となる時間制限を明確に区別しています。Xbox Accessibility Guideline 116: Time limits
デザインにおいて有効な問いかけは、「プレイヤーがもう一息立ち止まって考えた場合、何が変わるか?」です。もし答えが「何も変わらない」であれば、そのタイマーは有意義な意思決定を促すことなく、単にプレッシャーを与えているだけかもしれません。動く足場に飛び乗る、敵の攻撃に応戦する、短いイベント中に行動を起こすなど、タイミングが極めて重要な場面では、タイミングの猶予をわかりやすく示し、その役割を明確にしましょう。プレイヤーが予期できないペナルティによって、任意のはずのタイミングが実質的に義務化されてしまうような事態は避けるべきです。
例えば、任意で調べられる掲示板がある庭のシーンを想像してみてください。プレイヤーは近づき、自分のペースで読み、読み終えたら閉じて移動を再開できます。もし物語の都合で時間制限付きの出発が必要なら、ゲームはそのことを別途通知し、タイマーはそのイベント専用に残しておくことができます。これは分かりやすく説明するためのデザインパターンであり、特定のゲームに関する報告ではありません。
プレイヤーの行動速度を落とす前に、インタラクションの可読性を高める
ゆっくりとしたインタラクションが、それだけで満足感につながるわけではありません。複数のボタンを試し押しさせられたり、対象となるピクセルを探し回らされたり、フィードバックが不明瞭なために同じ操作を繰り返さなければならないと、その余分な時間は単なるストレス(フリクション)になってしまいます。可読性(リードしやすさ)とは、プレイヤーが何とインタラクトできるかに気づき、どのような行動が起きるかを予測でき、行動後に何が起きたかを理解できる状態を指します。
明確なフィードバックループを構築しましょう。明確なアフォーダンスを示し、実行可能なアクションを伝え、適切な視覚・聴覚・アニメーションの合図で結果を返します。曖昧さそのものがゲームプレイの意図的な一部である場合を除き、関係のない小道具が使用可能なオブジェクトと見分けがつかないような事態は避けましょう。複数のアクションが可能な場合は、それぞれの条件と結果を区別できるようにします。UIの文脈に関するMicrosoftのガイドラインでも同様に、要素の目的、操作方法、何が起きるかをプレイヤーが理解するのに十分な情報を提供することを求めています。Xbox Accessibility Guideline 114: UI context
読みやすさとは、すべてのオブジェクトの上に巨大なプロンプトを出すことだけを意味するわけではありません。統一されたビジュアルランゲージ、控えめなコンテキストラベル、カーソルの変化、効果音、短いアニメーションなどを活用できます。そして、選んだシグナルは実際のシーン内でテストしてください。ライティング、カメラの角度、画面サイズ、周囲の装飾などによって、シンプルなプロトタイプでは機能していた合図が、完成した画面構成では見つけにくくなることがあります。
意図したリズムを崩さない場面で一時停止を活用する
一時停止(ポーズ)は、ゲーム本来の構造を壊すことなく、プレイヤーに決断を下す時間的猶予を与えるペーシングのツールとなります。それは文字どおりのポーズメニューであっても、動きのない会話シーンであっても、計画を立てる俯瞰ビューであっても、プレイヤーが選択肢を検討する間アクションを静止させる短いインタラクションであっても構いません。時間制限に関するMicrosoftのガイダンスでは、チュートリアルや通知などの核とならないUI要素は、プレイヤーが利用できるようになる前に消えてしまってはならないと指摘されています。その実装アプローチとして、表示時間の調整やプレイヤー操作による進行が挙げられています。Xbox Accessibility Guideline 116: Time limits
ポーズが及ぶ範囲は慎重に決めましょう。敵、環境ハザード、タイマーが止まるのか、それとも会話だけが止まるのか。世界が動き続けている間にもプレイヤーはインベントリを確認できるのか。どちらの選択も有効になり得ますが、インターフェースを通じてそのルールを予測可能にしておく必要があります。リアルタイムの対戦モードでは、他のプレイヤーに影響を与えずに1人のプレイヤーだけがポーズをかけることは難しい場合があります。その場合の代替案としては、ラウンド間の作戦時間を長めに設けることや、マッチメイキングが始まる前に情報を確認できるようにすることなどが考えられます。
また、一時停止は何らかの行動につながるものであるべきです。プレイヤーがメニューを開いても有益な情報やアクションが見つからなければ、そのポーズはただの停滞になってしまいます。目標の再確認、ツールの比較、計画の調整、ゲームの再開など、意味のある選択肢を用意しましょう。デザインの目的は静かな時間をすべて埋めることではなく、プレイヤーの意識が向かうべき有意義な対象を確保することにあります。
結果が目に見える小さな創造的選択を追加する
ちょっとした選択肢を用意することで、大掛かりな分岐シナリオにしなくても、静かなシーンに深みを与えることができます。アイテムをどこに置くか、どのディテールを真っ先に調べるか、作ったものにどんな名前をつけるか、見慣れた空間を抜けるのにどのルートを選ぶかなどをプレイヤーに選ばせましょう。その選択は物語全体を左右するものではなく、見せ方やその場限りのフィードバックに影響を与える程度で構いません。
有効な判断基準は、「その選択がプレイヤー自身にとって理解可能な好みを表現できているか」です。選択の結果が目に見えないパラメータの増減だけにとどまるなら、その重要性を実感するのは難しいでしょう。配置したアイテムが部屋に残り続けたり、選んだルートによって次に出会うものが変わったりすれば、ゲームはその結果を直接示すことができます。これはデザインにおける論理的な帰結です。目に見える結果があることで、プレイヤーは自分の行動とその結末を結びつけやすくなります(具体的な実装方法はゲームによって異なります)。
『Unsighted』の開発者へのGame Developerのインタビューでは、複数の入り口や障害物への多様な対処法が用意されたエリアについて語られており、周回プレイでプレイヤーが後から発見できるルートや解決法も含まれていることが説明されています。これはレベル構造そのものに選択肢が組み込まれている好例です。スローペースなゲームでは、この大枠の原則を縮小して適用できます。すべての選択でゲーム全体を分岐させる必要はなく、その場所と関わるための分かりやすい手段をいくつか提供すればよいのです。Designing for meaningful consequences in *Unsighted*
あらゆる移動速度ではなく、全体の「リズム」を調整する
ペースとは、一連の瞬間の連なりが織りなすパターンとして捉えましょう。プレイヤーは見慣れた道を素早く駆け抜け、新しいランドマークの前で足を止めて観察し、小さな選択を行い、タイマーに追われることなく先へ進むかもしれません。別のシーンでは、移動自体はキビキビと保ちつつも、安全に計画を立てられる時間を用意することで意思決定のリズムを緩やかにすることもできます。こうした緩急のリズムを変化させることで、ゲームに探索の余白と前進するドライブ感が生まれます。
あるセクションが慌ただしく感じられる場合、移動速度をいじる前にその根本的な原因を突き止めましょう。プレイヤーがプロンプトを見落としているなら、視認性を高めたり表示時間を延ばしたりします。どのオブジェクトが重要か分かっていないなら、インタラクションの手がかりを明確にします。選択肢を検討する時間がないなら、プレイヤーが任意でかけられる一時停止を導入するか、安全なタイミングに決定の場を移します。選択肢の内容を理解した上で退屈だと感じているなら、選択肢そのものや得られるフィードバックを変更します。歩く速度を遅くしても、解決できるのは移動速度の問題だけです。
その行動において本来意図されているプレッシャーがあるなら、特定のチャレンジに紐づく緊迫感はそのまま残しておきましょう。GDCにおけるペーシングの議論では、あるレベルのテンポは前後のレベルと合わせて考慮すべきであると述べられています。また、ナラティブゲームデザイナーのデイブ・グロスマン氏は、ペーシングとはプレイヤーの操作とデザイン構造(課題と報酬を含む)の双対によってゲームが形作るものであると述べています。これらの視点は実践的なアプローチを裏付けています。すなわち、切迫感そのものが目的である瞬間はそれを維持し、観察、インタラクション、選択が目的である瞬間にはプレイヤーが自分のペースで操作できるタイミングを用いるべきだということです。GDC 2017 Level Design Workshop, GDC Speaker Spotlight: Telltale’s Dave Grossman on Authorial Control
実践的な確認用チェックリスト
落ち着いたテンポを感じさせたいシーンごとに、プレイヤーの視点から一連の流れを見直してみましょう。何が注意を引くのか、何が任意なのか、何に時間制限があるのか、そしてどのアクションに対してどのようなフィードバックが返ってくるのかを特定します。その上で、時間をかけて読んだり決断したりすることで、予期せず進行状況が消去されたりインタラクションが終了してしまったりしないかを確認してください。
短いプレイテストを行えば、リズムがどこで崩れているかが明らかになります。プレイヤーに対して、何がインタラクト可能だと思ったか、いつなら時間をかけられるか分かっていたか、自分の選択によって何が変わると期待したかを尋ねてみましょう。プレイヤーがためらったり、同じ入力を繰り返したり、任意の要素に気づかずに立ち去ってしまった箇所を観察します。そうした観察結果は調査のための手がかりとして扱い、すべてのプレイヤーが同じ反応を示す証拠だと決めつけないように注意してください。
デザインの目標は、注意と行動の明確なリズムを生み出すことです。移動することがシーンにとって意味を持つときには移動でき、思考を要する選択の前では立ち止まることができ、ルールを手探りで推測することなくインタラクトできるようにします。スローペースなゲーム体験とは、移動速度の設定項目だけで決まるものではなく、そうした心地よいリズムから立ち現れるものなのです。
