多色木版画・凸版画のざらつきや不要な色スジを解消する方法
多色版画でざらつき、色ムラ、スジが発生した場合は、1色ずつ原因を特定します。まず試し刷り用の紙で各版のテスト刷りを行い、インク膜、版の表面、ローラー、転写時の圧力を確認してください。目指すのは、凸部に薄く均一な層を作ることです。インクが少なすぎるとかすれの原因になり、インクや圧力が多すぎると彫った部分に色がはみ出し、輪郭のフチ取りやスジが発生します。刷りごとに条件を1つずつ調整し、何が改善につながったかを把握できるようにしましょう。
まずどの色の層(版)に欠陥が生じているかを特定する
次の色を重ねる前に、各色の刷り上がりをよく確認します。可能であれば、本番と同じインク、紙、印刷方法を用いて、試し刷り用の紙に各版のテスト刷りを行ってください。テスト刷りには色名をラベル付けし、変更した点を記録しておきます。これにより、単一の版による不具合なのか、色を重ねたときにのみ発生する問題なのかを切り分けることができます。
1色の最初の刷りでスジが現れる場合、その色のインク台、ローラー、版、または転写に原因があると考えられます。別の色を刷った後に初めて現れるスジは、まだ乾いていないインクを拾ってしまうなど、前の層との接触が原因である可能性があります。これは診断上の推測ですので、制作工程全体を変更する前に、単色のテスト刷りで確認してください。多色凸版印刷では、重ね刷りの下のインクが濡れたままだと転写の妨げになります。北カリフォルニア版画協会のトラブルシューティングガイドでは、次の版を刷る前に下層のインクを乾かすことを推奨しています。(Relief Troubleshooting)
この確認は「見当合わせ(レジストレーション)」とは別個に行ってください。色の位置は合っているのにざらつき、スジ、余計な汚れがある場合は、後述するインク付けと転写のチェックを進めてください。色が全体的にずれている場合は見当合わせの問題であり、本ガイドの対象外となります。
インク台とローラーのインク膜をリセットする
塗りのざらつきは、版にインクを付ける前の段階で始まっていることがよくあります。少量のインクを出し、ローラー(ブレイヤー)の幅程度に伸ばします。前後に転がし、ストロークごとにローラーを持ち上げながら、インクが均一に行き渡るようにします。ボストン美術館では、ローラーに均一に塗布するためにこの「持ち上げて転がす」動作を推奨しており、UNSWメイキング・センターでも同様に、1ストロークごとに持ち上げることを推奨しています。(MFA Boston: Printmaking、UNSW Making Centre: Relief Printing)
版にインクをのせる前に、ローラーとインク台を確認してください。インク台の上でインクにダマ、スジ、ムラが目立つ場合、版にもそのまま反映されてしまいます。また、乾燥したインクの破片やゴミがあると、点状の汚れや引っかき傷の原因になります。インク台からゴミを取り除いてください。乾燥したインクや、油分・溶剤で汚れた表面によってインクが不均一になっている場合は、インク台とローラーを清掃し、新しいインクでやり直してください。トラブルシューティングガイドでは、インク台のインクのムラ、乾燥したダマ、ゴミを清掃や除去が必要な個別の原因として挙げています。(Relief Troubleshooting)
添加剤や調整を行う場合は、インクメーカーの指示に従ってください。自己判断で油、水、メディウムなどを加えないでください。粘度を変えると新たな問題が生じる可能性があり、インクによって性質も異なります。最初の修正としては、延ばすインクの量と、どれだけ均一に広げるかのみを調整してください。
インクの不足と過剰を修正する
色が薄い、斑点状になる、かすれるといった現象は、凸面に十分なインクがのっていないことだけでなく、ローラーが版を均等にカバーできていないことや、紙がしっかりと密着していないことでも起こります。ローラーにインクをごく軽く付け直し、版の上を重ね合わせるように転がし、必要に応じてストロークの間で版の向きを変えてください。UNSWでは、インクを付け直して転がす方向を変えることを推奨しています。ニューヨーク州立博物館の凸版印刷ガイドでも同様に、ローラーに均一にインクをのせることの重要性を説き、インクが少なすぎると色と鮮明さが損なわれると警告しています。(UNSW Making Centre: Relief Printing、New York State Museum: Relief Printing and the Works of Frank C. Eckmair)
彫った線がインクで埋まってしまったり、凸面からはみ出したり、印刷部の周りに太いフチができたりする場合は、まずインクの量を減らしてください。それでもフチが残る場合は、圧力を少しずつ弱めます。スコットランド国立美術館では、印刷されたエッジにできるインクのフチは転写時の圧力によるものと説明しており、凸版トラブルシューティングガイドでも、版のエッジでインクがつぶれる原因としてインクや圧力の過剰を挙げています。(National Galleries of Scotland: Relief Printmaking、Relief Troubleshooting)
刷り上がりが薄いからといって、版にインクを大量に盛ることは避けてください。まずは凸面全体にインクが行き渡っているかを確認し、次に該当する部分の転写圧力を確認します。ニューヨーク州立博物館のガイドでは、インクが多すぎると細い線がつぶれる可能性があり、少なすぎると力強い発色が損なわれると指摘されています。その適度なバランスは版、紙、インク、手刷りかプレス機かによって異なるため、決まった転写回数に頼るのではなく、テスト刷りを比較して判断してください。(New York State Museum: Relief Printing and the Works of Frank C. Eckmair)
不要な色スジのパターンから原因を特定する
ローラーの円周と同じ間隔で繰り返されるスジは、重要な手がかりになります。ローラーの表面に乾燥したインク、汚れ、傷、平らにつぶれた箇所がないか点検し、きれいな状態で転がしたテスト刷りでも同じ跡が出るか確認してください。版にインクを付けた後にのみ現れるスジは、ローラーの転がし方、版の削りカスやゴミ、エッジに溜まったインクなどが原因の可能性があります。これらは跡がどこに現れるかに基づく推測ですので、きれいなテスト刷りを行って原因を特定してください。
ローラーを転がすパターンを変えてみてください。ストロークを重ね合わせ、複数の方向からインクをのせ、単一の溝やフチに沿って繰り返し転がさないようにします。トラブルシューティングガイドにはローラーの跡が挙げられており、転がすパターンを変えることが推奨されています。また、線がにじむ場合は、インク付けの方向や速度を調整することも推奨されています。(Relief Troubleshooting)
ローラーの端と版の周囲を注意深く確認してください。ローラーの端に溜まったインクは直線の跡を残すことがあり、版の周囲にある余分なインクや過度な圧力は色付きの帯やフチを形成することがあります。次のテスト刷りの前に、ローラーの側面と版の端から溜まったインクを拭き取ってください。スジが版の特定の凸部に沿って発生している場合は、その部分にバリ、削りカス、あるいはインクを拾ってしまう浅すぎる彫り跡がないか確認します。凸版印刷は凸部にインクを付着させるため、彫り残した凹部がローラーや紙に接触すると刷り出されてしまうことがあります。(National Galleries of Scotland: Relief Printmaking、Relief Troubleshooting)
版、紙、転写時の密着度を確認する
ローラーのインク膜は均一に見えるのに刷り上がりにムラがある場合は、版の表面と紙を確認してください。版の表面が粗かったり、埃をかぶっていたり、傷んでいたり、凹凸があったりすると、均一なインク膜や密着が得られなくなります。ゴミを取り除き、版が平らになっているか確認してください。トラブルシューティングガイドでは、版の表面処理が不十分であることがインクのムラ(斑点)の原因の1つとして挙げられています。表面自体に凹凸がある場合、インクを増やすと一時的に症状は隠せてもディテールが損なわれるため、インクの粘度を変える前に版の状態をテストしてください。(Relief Troubleshooting)
手刷りの場合は、紙を滑らせないように置き、版全体をしっかりと均一な力でこすります(バレンなどを使用)。薄い部分だけを強く押すのではなく、版全体を均等に擦ってください。ボストン美術館の手順では、紙を動かさないことと、版全体に均一な圧力をかけることが強調されています。プレス機を使用する場合は、紙と版のセッティングに適した圧力になっているか確認してください。圧力が強すぎるとエッジのはみ出しの原因になり、接触が不十分または不均一だと転写不良(かすれ)が起こります。(MFA Boston: Printmaking、UNSW Making Centre: Relief Printing)
紙によってもインク層の転写状態は変わります。均一にインクを付け、圧力をかけても一部の領域だけかすれる場合は、同じ用紙の切れ端で同じ方法を試し、可能であれば適切な版画用紙と比較してみてください。紙の変更は意図的なテストとしてのみ行ってください。紙、圧力、インクを一度に変えてしまうと、何が原因だったのか判断が難しくなります。紙が湿っていたり、異常に硬かったり、紙ごとにばらつきがある場合は、転写に影響を与える可能性があるため、その状態を記録しておきましょう。トラブルシューティングガイドでは、プレス機の特定の条件下で湿った紙が細部のブレを引き起こすことや、紙の硬さがインクの吸収性に影響することが指摘されています。(Relief Troubleshooting)
色の層が余計な跡を残さないようにする
色を変える際は、清潔な道具を使い、インクを分けてください。色ごとに清潔なスパチュラを使うことで、予期せぬ混色を防ぐことができます。UNSWでも特に、清潔なスパチュラを使用し、交差汚染(混色)を避けるよう推奨しています。色を変えるときは、特に次の色が明るい色の場合は、インク台とローラーを拭くか洗浄してください。(UNSW Making Centre: Relief Printing)
次の色が前の色を拾ってしまったり、不均一に転写されたりする場合は、前の層の乾燥時間をもっと取る必要があるかテストしてください。乾燥時間はインクや紙によって異なるため、決まった待ち時間を当てにするのではなく、インクメーカーの指示に従い、テスト刷りで比較してください。トラブルシューティングガイドでは、下層が濡れていることが、重ね刷りの色がうまく転写されない原因として挙げられています。(Relief Troubleshooting)
短いテスト刷りの手順で問題を解決する
問題が発生した各色について、以下の手順を行ってください。
この手順は、各資料のトラブルシューティングをもとにした実践的な判断ステップです。多色刷りの工程で他の部分を変更する前に、欠陥の原因となっている段階を特定できます。特定の症状を改善した変更点を維持し、本番の紙に戻る前にもう一度テスト刷りで確認してください。
